名水とは？名水百選のお水も紹介

日本は山々に囲まれており、豊かな自然に恵まれています。水資源も豊富で、全国各地に「名水」と呼ばれるお水があります。言葉として知ってはいるものの、名水が具体的にどのようなお水を指すのかよく分からない、という方もいるのではないでしょうか。

そこでこの記事では、名水の定義について解説するとともに、環境省が選定した「名水百選」の上位をピックアップして紹介します。

1. そもそも名水百選とは？
1-1. 昭和の名水百選
1-2. 平成の名水百選
1-3. 名水百選はどのように選ばれた？
2. 選抜総選挙も開催
3. 名水百選選抜総選挙のトップ3を紹介
3-1. 観光地として素晴らしい名水部門
3-2. 景観が素晴らしい名水部門
3-3. 秘境として素晴らしい名水部門
4. 世界に誇る名水を感じてみよう！

そもそも名水百選とは？

「名水百選」が誕生した時期は昭和までさかのぼります。環境省（当時は環境庁）が日本全国の湧水や河川から百選を選定しました。その後、平成にも新たに百選が選ばれています。まずは名水百選の成り立ちや目的を見ていきましょう。

昭和の名水百選

1985年3月、当時の環境庁は全国各地から100か所の湧水や河川を昭和の「名水百選」として選定。この取組みの目的は、日本各地に眠る素晴らしい水源を新たに見つけ出すことでした。※1

同時に「貴重な水資源について広く啓発し、水質保全に関する認識を深めてもらう」という狙いもあります。また、日本の水環境の積極的な保護や、水環境を守るための行政活動の推進も、名水百選の目的の一環です。※1

平成の名水百選

昭和の名水百選の選定から20年以上の間、名水に選ばれた地域ではお水を守る活動が続けられてきました。しかし世界的な水需要の増加や気候変動により、水環境は悪化の一途をたどります。

そこで2008年に神戸で開かれたのが「気候変動と水」のシンポジウムです。このシンポジウムでは、気温上昇や降水量の変化が水資源に影響を与えていることが確認されました。これを受け、第三次環境基本計画や21世紀環境立国戦略でも、持続可能な水利用の重要性が強調されるようになったのです。

このような背景から、地域でお水を守る活動もしている場所が「平成の名水百選」として新たに選ばれました。したがって名水百選は昭和・平成を合わせ200の場所が選ばれています。※2

名水百選はどのように選ばれた？

「平成の名水百選」は、「平成の名水百選調査検討委員会」によって、以下の6つの評価軸に基づいて選定されました。

水質・水量
周辺環境の状況（周囲の生態系や保全のための配慮等）
親水性・近づきやすさ（お水への近づきやすさや安全性を重視）
水利用の状況（水利用の伝統を含む）
保全活動（保全活動の内容・効果を重視）
その他の特徴・PRポイント（故事来歴や希少性等） ※2

ただし、昭和に選ばれた名水百選も平成の名水百選も、飲み水としてふさわしいことを保証するものではありません。飲用する場合は、必ず各自治体に確認するようにしましょう。

選抜総選挙も開催

名水百選の取組みは、2015年に30周年という大きな節目を迎えました。これを記念して、環境省が実施した企画が「名水百選選抜総選挙」です。この目的は、改めて名水百選を知ってもらい、日本が誇る水資源の素晴らしさを広く共有することでした。総選挙では、200か所（191市町村）が立候補し、投票がおこなわれました。※3

名水百選選抜総選挙のトップ3を紹介

名水百選選抜総選挙で上位に選ばれた水源は、どれも日本が誇る素晴らしい名水ばかりです。ここで、特に魅力的な水源として注目を集めている各部門のトップ3を紹介します。

観光地として素晴らしい名水部門

第1位安曇野わさび田湧水群

安曇野わさび田湧水群は、長野県安曇野市にある名水百選のひとつです。北アルプスの雪解け水が地下に浸透し、わさび田に湧き出しています。日量70万tもの湧水量を誇り、年間を通して水量や水温が安定しているのが特徴です。名水百選に加えて、国土交通省の「水の郷」にも認定されました。

このお水はわさびの栽培やニジマスの養殖に利用されており、地域の特産品を支える重要な役割も担っています。湧水群の周辺には公園や観光施設があり、清らかなお水がわさび田を潤す美しい景観と湧水の透明度、そしてお水の冷たさが訪れる人々を魅了しています。

第2位塩釜の冷泉

塩釜の冷泉は岡山県真庭市にある泉で、昭和の名水百選に選ばれました。岡山県と鳥取県の間に位置する中蒜山（なかひるぜん）の谷間から湧き出ています。湧水量は毎秒300Lで、水温は年間を通じて約10℃前後と安定しているのが特徴です。

地元の約600世帯が生活用水として利用しており、地域にとって重要な水源でもあります。周辺にはキャンプ場や釣り堀、スキー場等の施設があり、観光地としても人気です。塩釜の冷泉で自然の美しさを体感したら、様々なアクティビティを楽しむのもよいでしょう。

第3位まつもと城下町湧水群

まつもと城下町湧水群は長野県松本市にあります。松本市は北アルプスの美ヶ原等の山々からの伏流水が豊富で、地下水が地上に湧き出しており、そこからまつもと城下町湧水群が誕生しました。湧水群の周辺は松本城の城下町として、訪れる人々ののどを潤してきた歴史があります。

市内には多くの井戸や湧水が点在しているのもこのエリアの特徴です。例えば「源智の井戸」や「中町蔵の井戸」等が知られています。散策しながら湧水群の歴史や地域の人々の暮らしに触れてみてはいかがでしょうか。※3

景観が素晴らしい名水部門

第1位安曇野わさび田湧水群

「観光地として素晴らしい名水部門第1位安曇野わさび田湧水群」は、景観が素晴らしい名水部門でも1位に輝いています。

第2位大杉の清水京都府舞鶴市杉山地区にある名水百選のひとつ。
霊峰青葉山の山間に位置しており、お水は年間を通じて約11℃の水温を保っています。大杉神社の祠の近くから湧き出るこのお水は、樹齢800年を超える大杉の木々に囲まれており、自然の美しさを感じられるのも魅力です。

水質は非常に良く、江戸時代の地方誌「丹哥府誌（たんかふし）」には「その水をなめると清く、かつ甘く銀水のごとく」と記録されました。お水は現在も地域の生活用水等に広く活用されています。周辺では地域住民による環境保全活動がおこなわれており、その清らかさが大切に守られているのです。

第3位かつらの千年水

兵庫県美方郡香美町の但馬高原植物園内にある名水百選の一つです。この湧水は、樹齢1000年以上の「和池の大カツラ」の根元から湧き出ており、冷たく清らかなお水が特徴です。

水温は年間を通じて約10℃前後と安定しており、夏でも冷たさを保ちつつ、園内の植物や動物に恵みを与えてきました。1日あたり約5,000tもの湧水量があり、地域の農業用水や生活用水としても利用されています。周辺の緑豊かで雄大な景観も魅力的です。高原にしか自生しない植物もたくさん見られます。※3

秘境として素晴らしい名水部門

第1位鳥川ホタルの里湧水群

鳥川ホタルの里湧水群（とっかわホタルのさとゆうすいぐん）は、愛知県岡崎市にあります。鳥川地区は小高い山々に囲まれた山間の集落で、山にしみ込んだ水が地区内各所で湧き出しているのが特徴です。水くみ場のひとつである「延命水」は、市内外から水をくみに来る人が多く、人気があります。

この地域は天然のゲンジボタルの生息地としても知られており、毎年6月には1,000匹を超えるホタルが飛び交う幻想的な光景が広がります。保存会による保護活動も盛んに行われており、廃校を利用したホタル学校では、ホタルの生態や環境保全について学べます。

第2位鷹入の滝

島根県安来市伯太町（やすぎしはくたちょう）にある美しい三段の滝です。この滝は標高706mの鷹入山の中腹に位置し、鳥取県との県境に位置しています。滝の高さは約10mで、木々に囲まれた岩壁を一気に落ちる姿は見事です。

滝壺の前には伝説の女神を祀る祠があります。滝周辺の自然環境は非常に美しく、杉木立や奇岩が連なる景勝地として知られています。夏には地元の方々による「鷹入りの滝まつり」が催され、涼を求めて散策に訪れる人も少なくありません。鷹入の滝は地域のシンボルとして、世代を超え愛されています。

第3位金峰山湧水群

金峰山湧水群（きんぽうざんゆうすいぐん）は、熊本県熊本市西区と玉名市に点在する20か所の湧水群を指します。金峰山系の豊かな自然環境から湧き出る清らかなお水が特徴です。周辺には杉木立や奇岩が連なり、四季折々の美しい風景が広がります。

それぞれの湧水は、地域住民によって昔から生活用水として大切に利用され、水神様として奉られる等、大切にされてきました。代表的な湧水地には、地域の生活に根ざした「長命水」や、宮本武蔵が「五輪書」を著した霊巌洞のある「雲巌禅寺」があります。※4
また、夏目漱石等多くの文化人に愛された「成道寺」や、明治天皇行幸の折に献上された天長水を汲んだ「天水湖」等が点在しています。※3

世界に誇る名水を感じてみよう！

日本には、世界に誇れる名水が数多く存在します。これら名水の魅力は、清らかな水質だけではありません。周囲の自然環境と調和した美しい景観も、その大きな特徴です。
お水の美しさとともに、日本ならではの景観美や文化の奥深さを五感で味わうことができます。この機会に、ぜひ名水百選へ足を運んでみてはいかがでしょうか。